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女性は生まれてから子ども時代を経て、思春期といわれる12歳前後で初めての月経(初経)を迎えます。その後、周期的な排卵と月経が30数年間、続きますが、40歳代後半から無排卵性の不規則な月経周期となり、50歳前後になると月経が永久に停止します(閉経)。閉経年齢は平均50歳で、一般に、閉経をはさんだ前後10年間(40歳代後半から50歳代前半)は更年期と呼ばれています(図1)。
更年期には、それまで卵巣で合成・分泌されていた卵巣ホルモンの分泌が減少し、ついには全く欠落する現象がおこります。卵巣ホルモンは女性ホルモンと一般に言われますが、卵胞ホルモンであるエストロジェン、とくに17ベーターエストラジオール(E2)と、黄体ホルモンであるプロジェステロンがあります。
エストロジェンの血液中の濃度が低下すると、①のぼせ、ほてり、発汗などの自律神経失調症状、②イライラ、抑うつ、不安などの精神的症状、そして、③手のこわばり、関節痛などの運動器症状、④性交痛、頻尿などの泌尿生殖器症状などなどを自覚するようになります。これらを更年期症状と言います(図2)。
そして、これらの自覚症状をもたらす原因は、エストロジェン欠乏によって体と脳に起こっている病的な障害で、更年期障害と呼ばれます。
更年期症状は、女性の日常生活を、大変つらい、過酷なものにします。
また、たとえ更年期症状を乗り越えたとしても、多くの場合は、さらに卵巣機能欠落症状として続きます。
そして、更年期障害として始まった体と脳の病的な障害は、生涯、進行します。
本院では、ホルモン補充療法を更年期障害とその後の障害の根本療法ととらえて治療を行うとともに、漢方薬による治療、生活習慣の改善の指導などによる治療を行います。
①生活習慣の改善:
運動や食事などを中心とした生活習慣の改善を指導します。
②ホルモン補充療法(HRT; hormone replacement therapyあるいはERT; estrogen replacement therapy):
不足したエストロジェンを補うために、薬剤としてエストロジェンを補充します。
薬剤には、飲み薬・貼り薬・塗り薬があり、希望に応じて選択し、治療を行ないます。
子宮内膜がんと子宮筋腫などの有無に関する婦人科的検診、乳がん検診について専門医に依頼して行なっていただきます。なお、これらの検診は、この後も年1回は行なうことをお約束いただきます。
「補充療法施行中には」、血圧、身長、体重の測定はもとより、血算、生化学的検査(肝機能、脂質など)を3~6ヶ月毎に、必要があれば心電図と動脈硬化度測定を少なくとも1年毎に行います。さらに、近年、特にピルなどによる治療では血栓の発生が副作用として危惧されてきていますので、HRT全体で、治療開始時はもとより、治療開始直後から6ヵ月毎に血液の凝固系、線溶系の検査を行います。
ホルモンを分泌する組織・器官の機能異常・低下により正常な血中ホルモン量が維持できないとき、外部からそのホルモンの補充をするのは理屈にあった医療です。
例えば、甲状腺や膵臓の機能低下(甲状腺機能低下症や糖尿病)では甲状腺ホルモンやインスリンの投与を行います。
同様に、卵巣、精巣の機能異常や低下に対して卵巣ホルモンや精巣ホルモンの補充を行うことも理屈にあった医療と言えます。
卵巣ホルモン、とくにエストロジェンの補充はなぜ必要か
閉経とは、まず卵巣機能の低下がおこって、視床下部—下垂体—卵巣系という、周期的な排卵と月経を起こすシステムの機能が停止することを意味します。
でも、卵巣機能の低下で一番問題になるのは、排卵や月経が起こらなくなることではなく、卵巣が分泌していたエストロジェンという卵胞ホルモンの血中濃度が低下し、このホルモンが守っていたさまざまな体の働きに異常が起こってくることです。
ホルモン学講座第4回をお読みいただけると納得されると思いますが、閉経前は、子宮、膣、乳房をはじめ、皮膚、血管、脂質代謝、糖代謝、骨、そして脳などの働きはエストロジェンによって強く守られています。
しかし、エストロジェンが欠乏してくると、まず現れるのが更年期障害なのです。
さらに、更年期(閉経期をはさんで、前後10年間をこう呼びます)を過ぎても、生涯、エストロジェン欠乏の影響は続きます。
したがって、女性におけるホルモン補充療法(HRT;Hormone Replacement Therapy)は、エストロジェンを補充して、更年期とそれ以後の体と脳を守ることが目的です。
でも、子宮を持つ女性の場合は、エストロジェンによって子宮内膜増殖がすすみ、子宮内膜がん発生の可能性があるため、かならず、もう一種類の卵巣ホルモンである黄体ホルモン(プロゲストーゲン)を併用することが原則で、EPTと呼ばれます。
でも、何らかの理由で子宮を摘出した女性では、エストロジェンのみの投与を行うことができ、ETと呼ばれます。
ホルモン補充療法の効果
診療案内の図2に示されている諸症状が次々に消失していきます。
HRTを開始して一ヶ月後には、のぼせ、汗、手のこわばりも消え、そして、何人かの女性たちの感想は以下のようです。
「毎朝、死にたいと思って起きていたけれど、お腹がすいたーと起きるようになった」、「魔法の薬みたい」、「元の自分に戻った」、「怒らなくなって、家族が一番喜んでいるかも」、「会社を辞めてしまったけれど、また職探しを始めた」、「朝、家族を何とか送り出したあと、すぐにソファーでごろごろしていたけれど、それをしなくなった」、「物忘れがなくなって、快調に仕事をしています」、「初めてパッチを貼って寝たら、次の朝、シャキッと起きられた」。などの声をいただいております。